山口地方裁判所 昭和28年(行モ)2号 決定
被申立人が昭和二十八年四月五日付を以て申立人を出入国管理令第二十四条第一号該当者として申立人に対し発付した退去強制執行令書に基く執行を本案判決確定に至るまで停止する。
二、理 由
一、申立人は昭和十年十月二十五日大阪市東成区深江東五丁目に於て李熙健の長男として生れ現在満十七歳であり実父李熙健は大阪市東成区東小橋南之町一丁目一一五番地に正式の手続を経て居住している。
二、申立人は其の後昭和十七年頃母と共に故郷朝鮮全羅北道南原郡雲峰面海要里四四五番地の伯父(父李熙健の兄)李石録の家に疎開し生活して来たが母は昭和二十一年に死亡し李石録の嫁に養育せられてきた。
三、然し乍ら女子供だけでは現在、戦乱下にある朝鮮に於て生活することは出来ない窮状に至つた為、子供心に父親李熙健を一途に慕つて漸く日本内地に上陸したのであるが、今朝鮮に送り返へされることになれば送還翌日から直ちに路頭に迷う事は必然であり、出入国管理令第四条第一四号及同第十五号に云う本邦で永住しようとする者で又本邦に在留する李熙健の未成年の子で配偶者もない者である。
四、右の如き事情にて今回昭和二十八年四月二日日本上陸直後逮捕され口頭審理を受けたが未成年者の事ではあり、又数年間日本を離れていた事とて特別審理官より如何なる通知を受けたか、或は又之に対し如何なる処置を採るべきか不明の儘今日に至つたが申立人は未成年者であり出入国管理令第十一条に定める通知受領の能力も、又意思表示の能力もなく、従つて申立人が特別審査官に対し異議の申出をしない旨を陳述し、又之を記載した文書に署名したとしても該意思表示は取消し得べきものであるから、茲に取消の意思表示をする。従つて之を基礎として昭和二十八年四月五日被申立人の申立人に対して発した退去強制令書に基く強制送還処分は取消さるべきものである。
五、依つて申立人はその取消しを山口地方裁判所に訴求して居るがその判決ある迄に右退去強制令に基く強制送還処分の執行を受ける時は償い得ない損害を蒙ることゝなるのでその強制送還処分の執行停止を求むる為本申立に及んだ次第である。
というにあり、
按ずるに本案事件が当裁判所に提起されたことは当裁判所に顕著であり申立人に対し申立人主張のような退去強制命令書の発せられていることは疏明せられている。しかし申立人に対する退去強制令書が取消され更に口頭審理及び異議申立の審理が進められたならば申立人主張のような理由で申立人に上陸許可が与へられないとも限らない。而し若し申立人が右命令書の執行をされることになれば償うことの出来ない損害を蒙ること、それを避ける為には緊急手段を講ずる必要のあることは本件記録に徴し明かである。
以上の理由により本件申立は理由ありと認めて主文の通り決定する。
(裁判官 御園生忠男)